「自分にしかできないこと」幻想のウソとホント

 

過去のツイートを振り返るシリーズ。

今回は「自分にしかできないこと」についてです。 

 

北島康介にしかできないこと」はない

2008年北京五輪北島康介は、平泳ぎ100Mを人類史上初、59秒を切る58秒91で泳ぎ切り、2大会連続で金メダルを獲得しました。しかし、次の2012年ロンドン五輪で北島は同種目3連覇ならず、5位入賞に終わりました。

泳ぐ速さという面でいえば、すでに北島よりも結果が良いスイマーが世界に4人もいることになります。つまり、泳ぐ速さという絶対的な基準で見れば「北島にしかできないこと」はすでに無くなってしまっています。 

あの北島康介でさえ、もう無いんですよ。ちょっと衝撃的な事実ですよね。

 

それに比べたら僕なんかが「自分にしかできないこと」をやろうと思ったって、到底見つかるはずがない。

そもそも「これは自分にしかできないから、やる」というのは順番が逆です。「好きでやりまくってたら、世界一になった」という結果論にすぎないはずです。やりまくったって世界一にはなれないのが、ほとんどです。

 

結局「自分にしかできないこと」なんて、傍から見ればただの思い込みで、”幻想”に過ぎないのです。

言い換えれば、自分なんて存在は、結局外部からの絶対的な基準で見れば代替可能な存在なんです、寂しい現実ですけど。 

 

北島康介にしかできないこと」はある

いや、ちょっと待て。

北島が代替可能だと?!  北島康介はヒーローだ。

ビックマウス、有言実行。北島は常に結果を出してきた。あの最後のターンのあとぐんぐん伸びてくる北島の泳ぎにどれだけ興奮したか。2連覇を達成した時の獣のような雄たけびを、君は忘れたのか?!

 

そうです。

日本人にとって、北島康介はヒーローです(wikipediaを見ると、北島康介の人気がいかに高いかが反映されているアンケートが多くあるのがわかる)。

しかし、これは絶対的な基準とは関係がない、”みんなの心の中にいる北島康介”の話ですよね。日本人以外は北島のことなんて知らない人も多いでしょうし、北島をマジでスーパーマンかなんかかと思っちゃってる子どももいるでしょう。

北島はヒーロー。この極めて主観的な基準によって、北島は唯一無二の存在となるのです。代替は不可能。

 

これは自分にもあてはまります。

自分は誰かにとって、大切な人です。例えば、自分は「誰かの子ども」であるという事実は、基本的に代替不可能です。自分が存在し続けることそのものが、親にとっては「子どもであるあなたにしかできないこと」足りえるのです。

また、大切な人とまでは言えなくても、親兄弟・恋人・友達・教師と生徒など自分の存在が相手に影響していることは否定できません。影響を与えた以上、自分は既に”相手の心の中にいる自分”でありえます。”みんなの心の中にいる北島康介”と変わりありません。自分の周りに人がいる以上、自分が存在することそのものが「自分にしかできなこと」になるのです。

 

僕は、肯定したい

「自分が存在することそのものが、自分にしかできなこと足りえる」というの考えは、小説家・平野啓一郎さんの”分人主義”に着想を得ています。分人主義とは、ざっくり言えば個人主義の対極にあるもので、「自分とは、絶対的な”個人”ではなく、複雑な人間関係の中で相対的に存在する”分人”の集合体だ」とするものです(書評ブログ参照)。

 

この「自分が存在することそのものが、自分にしかできなこと足りえる」という考え方は、僕が勝手に考えていることですが、ある意味で当たり前のことを言っているに過ぎません。

似たような言葉に「自分の人生は自分しか生きられない」というものがあります。しかし、この言葉はやたらと説教くさい。どうせ「だから頑張れ」とでも続くんでしょうが、そんな言葉は僕には全然響いてこないです。それは全く頑張る理由になっていない。頑張らないことを否定する理由にもなっていない。 

”自分の存在そのものに意義がありうる”という考え方は、説教臭くないし、自分は代替可能だという寂しい現実から目を逸らすことなく、自分の存在を肯定することができます。だから、とても気に入っています。

 

僕は、世の中・生や死・自分その他諸々のものを、全て肯定したい。少なくとも否定はしたくない。否定することって簡単な割に、立ち直るのに時間がかかるから好きではない。

 

もっとも、「自分が存在することそのものが、自分にしかできなこと足りえる」という考え方も、周りの人がいればこその論理です。周りの人がいるから、自分は唯一無二の存在になれるのです。だから、周りに人には感謝するしかないですよね。

 

”情けは人のためならず”とはよく言ったものです、ホント。

全ては自分のためなんですよね。

 

それでは。もんもん。

 

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